漫画「大市民」 山形鐘一郎に学ぶ
日本は漫画大国であり、日本の漫画は今なお、世界を魅了し続けている。その要因として、「娯楽力」「コミュニケーション力」「文化力」の3つの特性があげられる。
「遊び(娯楽)」と「風刺」から成る日本の漫画は、物語の奥行きを一層引き出す「漫画文法」という手法を駆使して、ジャンルを問わない総合的文化力で表現している。いい意味で「ルール」がなく、様々な文化や芸術的側面が多く見てとることができるのだ。
世界最大規模の漫画市場でもある日本で最も売れた漫画は、すなわち世界で最も注目されている漫画と言える。ここでご紹介…
日本の漫画で最も売れたTOP10
【10位】 美味しんぼ
【9位】 NARUTO ナルト
【8位】 名探偵コナン
【7位】 こちら葛飾区亀有公園前派出所
【6位】 ドラえもん
【5位】 ブラック・ジャック
【4位】 SLAM DUNK スラムダンク
【3位】 ゴルゴ13
【2位】 DRAGON BALL ドラゴンボール
【1位】 ONE PIECE ワンピース
納得の票ではないだろうか。特に子どもにとっては、これらの漫画に登場するキャラクターは憧れでもあり、ストーリーには〝夢〟がつまっている。そういう意味では漫画は、子どもたちの〝指南の書〟と呼ぶにふさわしいのではないか。
ここでTRIAINAの〝指南の書〟を紹介。
「大市民」
聞き慣れた作品ではないが、著者の柳沢きみおは、「特命係長只野仁」の作者として知られている。
「大市民」の主人公である小説家・山形鐘一郎は人気作家でありながら貧乏生活を送るという変わり者。貧乏生活をエンジョイする山形自信の社会観や趣味、ライフスタイルを描いていて、食事の場面を中心として人生のうんちくを繰り返すという、一風変わったストーリーを展開している。原作者のエッセイ的作品となっているため、一貫して定まったストーリーは決まっていない。和服で下駄を履き、パソコンと携帯電話を否定して使わない保守的な生活スタイルを美学とするため、IT長者を徹底的に嫌い名誉毀損になりかねない表現で攻撃するシーンもある。
そんな〝変わり者〟の主人公である山形だが、実は物語の中で、幾多の名言とも取れるセリフを記しているのだ。いくつかを抜粋して紹介したい。
「ある年になれば分かるが、美人過ぎるのも、金持ち過ぎるのも、背が高すぎるのも極端なのは良くない。」
「女よりも、男こそ顔だ。全てが出るから。」
「就職は、給料で決めないで、やりたい事で決めなさい。」
「10年たてば企業の人気や業績順位もひっくり返るし、給料で選んで会社が不振になったら後悔するけど、好きで選んだ職種なら後悔しない。」
「人生はプラスがあるとマイナスがある。」
「我々日本人は金を稼ぐ能力はある(これを経済力とも言う)。しかし……(中略)……せっかく稼いだ富を生かす能力が悲しいほどに貧しい」
「人間として民族として上質になれるかどうかはつきつめれば美意識の高さなんだが」
「形にこだわる、とは他人の評価で決める、という事だ。自分の人生は自分だけのものだ!!自分にこそ認められる生き方をすべきだ!!形にこだわって生きた結果もし失敗の人生になったら後悔しか残らんが自分の生きたいように生きて失敗しても男なら笑って死んで行ける!!」
「したくない勉強はするなー!!したくない仕事なんかするなー!!!」
「人生の充実度は、自分の今に納得しているかどうかだ」
「美味(うま)し!!」
山形が展開する極論とも取れる言葉の一つ一つは、我々の人生にとっての具体的指針となり得るとも捉えることができる。
また作品中に、数多く登場する食事の場面では、山形流〝正しい食事〟や調理の仕方を披露。ビール片手に手作り料理、そして外食はエキソバと鮨が好物というパターンの中で、説法を吠えるというのも特徴の一つである。そして食事中の彼のセリフが「美味(うま)し」なのだ。何ともない言葉ですが読者であれば、実は奥深い〝名言〟であるということが理解できるのではないだろうか。
漫画の中で紹介された料理を集めた本も刊行されている。一人暮らしの男性にとって、ライフスタイルのヒントが詰まっているはずだ。
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混迷を続ける21世紀の日本。日本人としてのあり方、生活、そして夢の存在意義を皆様に教えてくれる〝指南の書〟とも言える、日本が世界に誇れる漫画がここにある。
勝ち抜くことだけが大切ではない。ささやかながらも豊かな暮らし…そう、「大市民」としての生き方が、我々にはあるのだから。