島田勇耶
インタビュー
命をかけて走り続け
勇気と夢を与えたい
interview & text:Y-Jet
昭和63年大阪生まれ/モトクロス国際A級ライダー
【所属チーム】TeamSRMマウンテンライダース
【レース車両】SUZUKI/RM-Z250
モトクロスライダーとして注目され、将来を期待されていたが、19歳の時に難病指定症例である「微小変化型ネフローゼ症候群」と診断される。しかし夢を諦めず、病気と闘いながらもモトクロスライダーとして今尚、走り続けている
夢を諦めようとは思わなかったんですか?
思わなかったですね。だからこそ、3年間治療に専念しました。僕は「国際A級クラス」でプロとして走るってことだけでなく、「いつかは世界で勝負をしたい」って大きな夢もあったんですよ。日本ではモトクロスは、まだまだマイナースポーツなんで、テレビで中継するようなメジャーなスポーツにしたいって想いが強くありました。
病気のこともあるので先のことは分からないですけど、今辞めてしまうと僕の今後の人生はつまらないものになってしまうと思ったんですよ。主治医の先生は「医者としてはゴーサインは出せないけど、一人の人間としては応援したい気持ちはある」と言ってくださいました。両親は「辞めたいと思ったら、いつ辞めてもいい。ただ続ける以上は、病気を言い訳に弱音を吐かないこと!」って言ってます。僕の勝手な決断を応援してくれて、支え続けてくれている人たちに、どれだけ感謝してもしきれない気持ちでいっぱいです。
夢であった「モトクロス国際A級ライダー」になるまでの道のりをお教えください。
道のりですか?険しかったですよ。2008年から治療に専念して、3年後に復帰したんですが、やっぱりなかなか結果が出ずにもがき苦しみましたね。薬の副作用やトレーニング不足っていうのが大きいんですよ。
僕が抱えてる病気で、許されてる運動っていうのは基本的にはないんです。体を疲れさせてはいけないというのが大前提なので。運動してもプールで歩いたりとかその程度です。だからあまり追い込んだトレーニングはできないんです。それでもやっぱり夢は諦めきれないので、体感トレーニングとか出来る限りのことをしました。
復帰してからも2年間苦しんで苦しみ抜いて、それでも努力し続けました。晴れて一昨年の2012年、近畿選手権の国際B級でチャンピオンになることができ、念願のプロとして走れる権利を与えられたのです。
病気して3年間ブランクあって、復帰してからも2年間もがき続けて、ようやくプロへの昇格。やっとここへたどり着けたんだなって思いました。プロへの道のりは果てしなく長かったですね。
でも試練は続くものですね。昔から抱えていたんですが、「コンパートメント症候群」っていう腕の筋や神経の機能障害が酷くなってきたんです。これも放っておくとバイクに乗れなくなってしまうので、少し前に手術をしました。そっから今もリハビリ中です。でもこれぐらいで諦めませんよ。もうすぐレースに再々復帰する予定ですし、まだまだ僕には大きな夢がありますから。
尊敬している人は?
渡辺明さんっていうSUZUKIのファクトリーチームの監督ですね。
モトクロスの歴史の中で唯一、日本人で世界チャンピオンになった人なんです。僕もSUZUKIに所属しているので、指導していただく機会もありまして、渡辺さんからは「目標はかなり高く持たないと最低限のレベルにも到達しない」って教えられています。その教えをいつも胸に日々、練習に励んでいます。
実は僕、小学校の卒業文集に「プロになって全日本でチャンピオン獲って、世界の名だたるライダーに打ち勝つ!」って書いたんですよ。だから昔から渡辺さんの教えは守っていたことになります(笑)。サッカーの本田圭佑選手の卒業文集は話題になりましたよね。書いたことを全て実現させたって。僕はまだまだこれからですけど、目標を高く持つのはとても大事なことだと思います。
今後の目標をお聞かせください。
病気する前の元気な頃は、国際A級ライダーとして活躍して、有名になってお金を稼ぎたいって思ってました。もちろん、モトクロスっていうマイナースポーツを、少しでも周りの人に知ってもらいたいって気持ちはずっとあります。
でも今はそれだけじゃなく、僕が病気を公言してレースに出ることで、同じように病気を抱えて苦しんでいる人や、人生につまづき暗闇の中でもがいている人たちに〝勇気〟を与えられるライダーになりたいです。何事も諦めずに頑張り続けていたら、どんな過酷な状況であっても達成できることもあるのだと伝えたいです。僕の走りを見ることで、夢や目標に向かって進むことの大切さに気付いてもらいたいと強く願っています。
僕の主治医の先生が、病気を抱えた若い患者さんたちに、僕の話をするって言ってました。どんなに辛い状況でも、決して諦めずに、夢に向かって走り続けているライダーがいるのだと。そういうの嬉しいんですよ。先生にはすごく感謝してます。もし時間があれば、僕の試合のレース観戦に招待したいと思っています。
夢を追いかけている人たちに一言お願いします。
夢は簡単に諦めてほしくないです。僕は何人もの関係者の方に「諦めろ!」って言われ続けてきてけど、命を削ってでも続けたいし、覚悟もしています。
スポーツ選手であれば怪我をして続けられなくなって引退するのが多いですよね。でも僕は、例え怪我をする前と同じプレーが出来なかったとしても、成績が残せなくなったとしても、どんな形であれ今の自分が残せる精一杯の結果を目標にして、夢を追い続けてほしいと思います。「やめるのは簡単、続けることは難しい」って言いますけど、僕からしたら辞めることの方が難しいですよ。モトクロスは僕の人生の全てなので。
それと後輩のライダー達には、例え怪我や病気で苦しんでいたとしても、僕のように病気でいつ走れなくなるかもしれないのに、ちゃんとスポンサーが就いてくれて、レースが出来る環境があるんだと伝えたいですね。だって病気を抱えたまま、全日本を戦ったライダーはいないと思うんですよ。今後そういった道を作っていってあげたいです。
〝夢〟とは何ですか?
命をかけるに値するもの。人生そのものです。
病気が発見された時に、「君がレーサーとしてトレーニングを積んでいなければ、体力が持たず助からなかったかもしれない」と医者に言われました。だから僕はバイクと出会っていなければ、この世にいなかったかもしれないのです。バイクに救われた命ならば、もう一度このバイクと共に夢を見たいじゃないですか。
やっぱりこの世界で勝ち上がって、有名になりたいって思いは今でもあります。でも現実は、体のことやトレーニング不足の面で厳しいのは確かです。モトクロスを観戦しに来る人たちの大半は、早い走りや豪快なジャンプをするトップレーサーを見に来るのが目的です。でも僕は例えトップになれなかったとしても、命をかけて走り続ける、病気を抱えた少しシャイなレーサーがいるということを、皆に知ってほしいと願います。何かカッコ良くないですか?そうやって周りの人たちに〝勇気〟と〝夢〟を与えられるレーサーって。
だから仮に生まれ変わったとしても「同じ人生でいいかな」って。また同じ病気で、もう一度同じ夢を追いかけるのもいいかなって思いますよ。命をかけた僕の夢に、皆が共感してくれるようになるまで、ずっとずっと走り続けたいです。
どれだけ過酷な状況でも決して諦めず、命をかけて夢を追いかける島田さんの生き様が、当サイトを通じてより多くの人に伝わることを切望します。大変貴重な人生のエピソードを、全て語ってくださり、心よりお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。